オルガネラの機能がおかしくなると...

植物の一生を通じてオルガネラは様々な働きをします。では、そのオルガネラの機能がおかしくなったら、植物はどうなってしまうのでしょう? ここでは、オルガネラの機能がおかしくなった結果引き起こされる植物の様子をご紹介します。画像をクリックすると大きな画像または動画がご覧になれます。

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小胞体品質管理と植物の成長と発生
小胞体では、分泌タンパク質や細胞膜タンパク質などのタンパク質が大量に合成されます。合成されたタンパク質は、折れたたまって高次構造を形成した後に小胞体を離れ、最終的な目的地まで運ばれます。しかし、タンパク質の高次構造形成の歩留まりはそれほど高くなく、異常タンパク質が常に生じます。また、細胞への様々なストレスによって異常タンパク質が増えます。小胞体には、異常タンパク質が目的地へと輸送されないように処理する品質管理とよばれるしくみが存在します。写真の左はシロイヌナズナの野生株、右は小胞体品質管理に欠損を示す変異株です。シロイヌナズナの通常の生育温度である20℃前後で育てた場合、野生株と変異株で大きな違いは見られません。一方、高温ストレス条件である29℃で育てると、変異株では花粉形成が異常となるため種ができなくなります(野生株と比べてサヤが小さくなっています)。このように、タンパク質の品質管理機構は細胞へのストレス耐性に重要な役割をはたしています。
画像提供:新潟大学 西川周一
葉緑体分化の異常と葉の「斑入り」
葉緑体(プラスチド)はシアノバクテリアの共生に由来するオルガネラで、植物細胞が光エネルギーと大気中の二酸化炭素、水を利用して光合成を行うための精密機械を装備しています。葉緑体はチラコイドと呼ばれる袋状の入り組んだ膜構造を発達させ、光エネルギーを利用します。成熟した葉緑体には、チラコイドが層状に重なった「グラナ」という構造が特徴的に観察されます。植物の葉肉細胞では光合成が活発に行われるので、葉緑体が発達しますが、チラコイド膜形成が異常になると、植物は自律的に生育できず多くの場合は生存できません。一方、ある種の突然変異では、一部の組織には正常な葉緑体が、他の組織には異常なプラスチドが形成されて、葉に「斑入り」が出来ることが知られています。写真では、シロイヌナズナの斑入り変異体 variegated 2 (var2) の例を示しています。これらの変異体や、変異の原因遺伝子を調べることで、未だよくわかっていないチラコイド膜の発達や葉緑体分化のしくみを詳しく調べることができます。このように、葉緑体機能がおかしくなると葉に斑入りが起こりますが、観葉植物でもよく見かけるように、「斑入り」は、私たちに身近な形質の1つでもあります。
画像提供:岡山大学 坂本亘
種子が発芽する時にはエネルギーを必要とします。シロイヌナズナは種子に貯めた脂質を分解して発芽に必要なエネルギーを獲得します。写真はシロイヌナズナの種子を播いて7日目の様子です。野生型である右の3個体はきちんと発芽していますが、左の ped1 という変異体は発芽できず種子のままです。 ped1 は、ペルオキシソームの中で機能するチオラーゼという酵素が欠損した変異体です。ペルオキシソームには、種子の発芽時に脂質を分解するという機能があります。チオラーゼを欠損したペルオキシソームでは、この機能が働かなくなるので、 ped1 変異体ではせっかく貯めた脂質を利用できないのです。図中のバーは1 cm。
画像提供:基礎生物学研究所 真野昌二
オルガネラ内の代謝系が正常に機能するためにはエネルギーが必要です。この動画はシロイヌナズナの芽生えの様子を示しています。左の9個体が野生型、右の9個体がPNC1、PNC2という2つのタンパク質の機能をRNAiという手法で同時に抑制した変異体です(以降、 pnc1/2i と呼びます)。2つのPNCはペルオキシソームの膜に存在するタンパク質で、発芽時にペルオキシソーム内へATPを輸送していることが明らかにされています。 pnc1/2i では、このATP輸送が低下しているために、ペルオキシソーム内で行われるべき脂肪酸の代謝が抑制され、その結果、発芽に必要なエネルギーを獲得できなくなります。
動画は実際の9,000倍の速さで表示しています。
動画提供:基礎生物学研究所 新井祐子、倉田智子
植物も動物同様、病原菌やウイルスの攻撃に曝されています。その対抗策の一つがプログラム細胞死と呼ばれるもので、感染してしまった細胞を自ら殺して周りの細胞に伝搬するのを防ぎます。2枚の写真はタバコの葉で、どちらも右側半分 (星印がついている側) にタバコモザイクウイルスを接種してあります。左の写真 (WT) は野生型で、ウイルスを接種された部位が細胞死を起こしていることが分かります。一方、右側の写真 (-vpe) は液胞タンパク質の成熟化に必要なVPE (Vacuolar processing enzyme) 遺伝子の発現を抑制したものです。野生型と異なり細胞死は起こっていません。一見健康そうにみえますが、実は葉の中でウイルスが増殖し、それが植物全体へと広がっていずれは枯死してしまいます。このように、液胞が関わるこの機能がおかしくなると植物は病気に対して抵抗できなくなるのです。
画像提供:京都大学 初谷紀幸、西村いくこ